雨柳がエドガーを愛でるとこ
~創夜もちゃんと愛でてるよ~
~ZEXAL+Ⅱ/エドガーのエトセトラ「アークライト家のバレンタイン」~
アニメZEXAL+Ⅱ/エドガーシリーズの番外編2つ目です。
こちらは2022年のバレンタインの日にpixivにあげた少し短めの
オリジナルエピソードです。
男だらけの家に(外では男として通してても)女が一人……となれば、
書くしかない。バレンタインの話を書くしかない。
という安易な考えで生み出したお話ですが、
エドガーのいるアークライト一家のとある2/14を
楽しんで頂けると、嬉しい限りです。
※がっつりと「既存キャラ×オリキャラ」の恋愛描写がありますので
地雷臭を感じた人は速やかに自己防衛してください……
・2026/2/14追加
ZEXAL+Ⅱ/エドガーのエトセトラ
「アークライト家のバレンタイン」
1――初めての二月
アークライト家の三男であるエドガー・アークライトは、実のところはアークライト家の三男ではなかった。それは、エドガーが元々エルス家という家で生まれるも両親の虐待に耐えかねて逃げ出し、アークライト家に保護された子であるという意味でもあり、何より、血の繋がりを考えなかったとしてもエドガーは本当は女だからという意味もある。
事情があり、エルス家でもアークライト家でも男として生きてきたエドガーだったが、十七歳になった年のある時、ついに自身の性別に纏わりついていたしがらみが無くなった。そして同い年である関係で表向きには双子の兄弟として育ったトーマス・アークライトと、互いに無意識にも異性として想い合っていたことがわかり、極端に女として生きることにした訳ではなくとも、トーマスと将来を約束するために、自ら望んで、無理をして男として生きることをやめたのだ。
そして、エドガーが女として迎える初めての二月がやってきた……
アークライト家のキッチンで、家族の夕飯などを担当している元三男、現在長女のエドガーは鼻歌交じりで夕飯を作っている。その様子を、一家の父親であるトロン以外の全員――長男クリストファー、次男トーマス、元四男であり現在三男のミハエルが不思議そうに眺めていた。
ク「エドガーの奴、やけに機嫌がいいな。トーマス、何か知っているか?」
ト「知らねえよ……ミハエルはどうだ?」
ミ「トーマス兄様が知らないことをどうして僕が知ってるんですか……」
ト「お前ら、下の子同士で仲良いじゃねえか」
ミ「それはそうですけど、姉様がなんでも話してくれるのはトーマス兄様だけでしょうよ……」
トーマスとミハエルが言い合っている中、クリスがふっと何かに気付いたように、
ク「もしかしたら……二月だからか?」
とつぶやく。
ト・ミ「二月?」
ク「今月は、エドガーがⅡ(ツー)の名を持ってから、初めて落ち着いて迎えられた二月だ」
ト「だからなんだってんだよ」
ク「エドガーもお前たちも、ナンバーズを従えるにあたって父様から頂いた名前である数字に愛着を持っているだろう?」
ト「まあ、確かに「4」は俺だけの特別な数字だからな」
ミ「「3」だって、僕だけの大事な数字ですからね」
と、話しながらトーマスとミハエルもクリスの言いたいことがわかったようである。
ク「だろう? ……つまり、Ⅱの名を持つエドガーにとっては、今月は特別な一ヵ月なのではないかと思ってな」
ト「なるほどな……」
ミ「確かに、言われてみれば僕も来月が待ち遠しいです!」
ト「ガキだなミハエル。俺は特に四月が楽しみとか、そんなことはねえぞ?」
ミ「ガキだなんてひどいですよ兄様……そんなこと言ったら、二月になって喜んでる姉様だってガキってことになりますよ?」
ト「そ、それはあくまで兄貴の予想だろ?」
ミ「なんですかそれぇ……僕のことはガキ扱いしておいて、姉様がガキ扱いされるのは嫌なんですか?」
ト「どーでもいいだろ、そんなこと!」
ミ「どーでもよくないですよ!」
弟たちが喧嘩を始めそうになったその時、ふいにクリスが小さく笑った。
ミ「クリス兄様、どうしたんです……?」
ト「急に笑いやがって、気持ちの悪い奴……」
ク「なに……数字の愛着に関してムキになるお前たちと違って、素直にこの二月を喜んでいるエドガーが可愛いと思ってな」
ト「はあ? 何を今更……」
さも当たり前と言った様子でそう言うトーマスに、ミハエルがじとっとした視線を送る。
ミ「……」
ト「おいミハエル、お前までなんだよ……」
ミ「いえ、別に」
ト「ああ?!」
ク「ミハエルは、ここぞとばかりにのろけるなと言いたいのだろう」
ト「はぁ?! のろけてねえよ!」
T「まあまあ、のろけたっていいじゃない。トーマスとエドガーは兄妹兼恋人なんだから」
ト「父さん!?」 ミ・ク「父様!」
ふいに、いつの間にかリビングに来ていたトロンが三人をなだめるようにそう言ったことで息子たちは驚く。
ト「……って! だから! のろけてなんかねぇっての!」
T「わかったわかった、そうムキにならなくていいから」
相変わらずの飄々とした口調で言われた言葉に、トーマスは急に恥ずかしそうな顔をして三人から顔を逸らす。
ト「ったく……」
そんなトーマスを見て、トロンはややわざとらしく何かを思い出したようなそぶりをして
T「ああ、そう言えばさ。君たちさっき初めての二月が何だとかって話してたけど……確かに今年の二月はエドガーにとって初めての二月だよね」
ミ「姉様がⅡの名前を名乗ってからいろいろ落ち着いて初めて、ってことですよね?」
T「いや、それだけじゃなくてさ……あれ、もしかして三人共、二月の重大イベントを忘れてる?」
ク「イベント、ですか……?」
三人揃って首をかしげる様子に、トロンは呆れたような顔をして、
T「本当にわからないの? みんな遅れてるなぁ……」
と言って、そのままキッチンへと走っていった。
T「ねえ、エドガー」
エ「ん? 何、父さん?」
ふいに名を呼ばれ、エドガーは料理をする手を一旦止めてトロンの方を見る。
T「なんだか今日は嬉しそうだね? 今日から二月だからかな?」
と言われ、エドガーはその言葉にも嬉しそうな顔をする。
エ「さすがだね父さん、実はそうなんだ! いろいろあって名乗り始めたⅡって名前だけど、やっぱり今となってはⅡってのも俺の一部って言うか、大事な名前だからさ。だから、今は「2」の数字もすごく好きになっちゃって……今日から一ヵ月、ずっと「2」と関わりのある毎日! そう思うと、別に何かあった訳じゃないんだけど、なんか気分が乗るんだよね!」
嬉しそうに話すエドガーに、トロンも嬉しそうに微笑む。
T「何気ないことでも嬉しく思えるのはいいことだよ。でも、そう言ってくれると僕も気持ちが楽になる」
エ「……? どういうこと?」
T「君たちが本当の名前を一度捨てた原因は僕だからだよ。あの時は、本当にひどいことをした……大切な家族を、自分の復讐の道具にしてしまって――」
エ「父さん! ……そのことはもう気にしないでほしいって、俺もみんなもいっつも言ってるだろ?」
T「……そうだったね」
エ「俺たち兄弟みんな、父さんが憎しみの心を捨てて、俺たち家族のもとに父親として戻ってきてくれただけで、それだけで幸せなんだからさ……それに、あの時の父さんは俺たちを復讐の道具だと思っていたかもしれないけど、俺たちは利用されてたなんて思ってないし……それに、復讐心に支配されていた時の父さんは本当の父さんじゃなくて、本当の父さんは必死に復讐をやめようと自分自身と戦っていたんだって、そう思ってるんだから」
T「……こんなに出来た子供たちがいて、親としてこれ以上の幸せはないよ」
エ「俺たちだって、父さんが父親でいてくれて幸せだよ」
二人とも、照れくさそうにも優しく笑い合う。それから、トロンはふっと思い出したように、
T「あー、そう言えば……二月と言えばバレンタインがあるよね」
と、話題をふった。
二人の話は他の兄弟たちにも聞こえていて、今の今までトロンたち同様にかつてのことを思い出してしんみりしていた兄弟たちが、バレンタインという言葉にハッとしてトロンとエドガーを凝視する。
エ「あるね。確かこっちだと、プレゼントがチョコに限定されてるんだっけ?」
こっちとは、現在アークライト一家が暮らしているハートランドシティ、並びにハートランドシティを含む日本地区のことである。
T「らしいね。でも、いいよねチョコレート。美味しいよね」
あくまでも自然にそう言うトロンだったが、エドガーは何かに気付いたような悪戯っぽい笑みを浮かべて、
エ「なに? 父さん、俺の作るチョコでも欲しいの?」
と、聞いてみる。
T「そりゃあ、今年は初めて娘が出来て迎えるバレンタインなんだから期待してもいいかな? なんて思ってね。日本地区では、女性が男の家族や友達に義理チョコとか言うものをあげるのも普通だって聞いたし」
娘と言われ、エドガーは少し照れくさそうな顔をする。
エ「娘かぁ……やっぱまだ慣れないなぁ。自分から『女として生きたい』なんて言ったのに……」
T「仕方ないさ。十七年も男として生きてきたんだから、まだ慣れないのは当たり前だし、だからと言って女として生きたいと思う気持ちも本物なんだから、あまりそういうことは気にしなくていいんじゃないかな?」
エ「そうだね……うん、ありがと」
T「まあ、しいて言うなら……改めてトーマスと籍を入れる時までには、少し慣れておいた方がいいかもしれないけどね」
エ「あ、うん……」
改めて、トーマスと籍を入れる――事実上の結婚のことを言われ、エドガーは素直にも顔を赤くする。
そして、少し離れた位置で二人の話を聞いていたトーマスも同様に顔を赤くし、クリスとミハエルにからかわれていたのだが、そんなことはトロンもエドガーも知らない。
T「それで、バレンタインのことだけど……僕たちにチョコは作ってもらえるのかな?」
エ「まあ、考えてはいたけど……あんまり期待しないでよ? せっかくだから今まで作ったことのないお菓子を作ろうと思ってるんだけど、いつものお茶請けみたいにうまく作れるかちょっと不安で」
アークライト家には、忙しくない日の日課に午後三時のティータイムがある。ミハエルが紅茶を淹れ、エドガーがお茶請けとなる菓子を作るのだ。料理同様にお菓子作りも趣味であり得意なエドガーの作るお茶請けは、ミハエルの紅茶と共にいつも家族を満足させている。
T「へー、初めてのお菓子か……それは楽しみだ!」
子供のようなテンションだが、どうやらこれはふざけている訳ではないらしい。好物である甘い物のこととなると、トロンは実際の年齢を忘れ、今の見た目に甘えて子供のような態度をとることが増えてきていた。
エ「ちょっと……そうやってハードル上げないでよ……」
T「まあ、たくさん欲しい~! なんて欲張りは言わないからさ――」
エ「――え!?」
トロンの言葉の途中、「たくさん欲しい」の辺りでエドガーは一瞬驚いたような顔をした。
エ「びっくりしたぁ……たくさん欲しいって言われたらどうしようかと思った……一つしか作らない予定だったからさ」
T「え、一つ……?」
エ「うん。日持ちもしないし、作るのにも時間がかかるものを作りたいから、十四日に合わせるなら一つだけかなぁ、って思ってるんだ。……あ、せっかくだから当日まで何を作るかは教えてあげないからね?」
T「あ、うん……そっか、一つだけか。うん、楽しみにしてるよ」
トロンはあくまで平静を装ってそう言う。
エ「ありがと。じゃあ、夕飯作っちゃうから父さんもみんなと休んできなよ。あと少しで出来るからさ」
T「ああ、そうさせてもらおうかな」
そう言って、トロンは兄弟たちのもとに行く。そこには、残念そうな、はたまた驚いているような顔をした三人がいた。
T「聞いたかい……」
三人の隣まで歩いてきたトロンは立ち止まり、目線こそ合わせずに静かに言う。
ミ「聞いたって、何をです……」
ミハエルは、トロンの言いたいことがわかっていながらもそう聞き返す。
T「バレンタイン……チョコレート……一つだけ……」
ク・ト・ミ「!!」
その言葉が、三人を戦慄させる。
T「そうだよね、女一人で男四人にチョコを作ってくれなんて無茶は言えないよね……そうなると、チョコをもらい受けることができるのはこの中でたった一人という訳だ……」
そこまで話して、トロンは息子たちを見る。その顔は、ひどく真剣みを帯びていた。
ト「……。残念だったなお前ら。この中で一人だけ、エディからチョコをもらえる男となれば……そりゃあ俺しかいねえだろう」
ク「何を言うトーマス。長男としてエドガーを含めた弟妹を支え続けてきた私こそ、エドガーからチョコをもらうにふさわしい……」
ト「バカか兄貴? 俺はエディの、その……あれだぞ! ほら……」
ミ「恋人?」
ト「そう、そうだ……恋人だ。恋人兼兄だ。だがお前たちは兄、もしくは弟だ。それだけだ。格が違うんだよ、格が。ふっ、悔しいでしょうねぇ」
ミ「格って……なんですかそれ! 意味わかんないこと言わないでくださいトーマス兄様! ああ、もう!! うざいんですよ、目障りなんですよ! 兄様たちのいちいちが!!」
ク「笑止。私に反抗するような弟たちは地獄の業火に包まれる……」
どこかで聞いたような聞いてないような言葉たちが飛び交う中、トロンは呆れたような深いため息をつく。そして、それに気付いた三人は一斉にトロンを見る。
ト「な、なんだよ父さん……」
T「君たち同様に家族想いのエドガーが、僕たち家族に優劣をつける訳ないだろう? 父である僕、唯一の下の子であるミハエル、一番の兄であるクリス、兄弟であり恋人でもあるトーマス……みんな家族という同じ立場の中で、違う立場でもある存在なんだ。その中で一番を決めるなんて、あの子に出来ると思う?」
ミ「それは、思えませんけど……でも、それじゃあ姉様は誰にチョコをあげるつもりだと言うんですか?」
T「決めてないんだよ、きっと……」
ミ「え……?」
T「作りたいチョコは思い付いた。だけど、思い付いたはいいけど誰にあげればいいのか、まだ決めてない……きっとそんなところだよ。だから……僕たちでチョコを勝ち取る一人を決めてあげるのが、親切だと思わない?」
ク「ですが、どうやって……」
T「デュエルだよ……」
ク・ト・ミ「!!」
T「アークライト家の人間はみんな、誇り高きナンバーズ使いのデュエリスト……なら、デュエルで勝負をつけるのもありだと思わない?」
その言葉の後、少しの沈黙が訪れる。そして、その沈黙を破ったのは……
ト「ふはははは! そういうことなら、俺のギミック・パペットたちによる最高のファンサービスをお前たちにくれてやるよ! そしてエディのチョコは俺がもらうぜ!」
トーマスの高らかな笑い声と、同時にキッチンから聞こえ始めた炒め物の大きな音だった。どうやら、エドガーには炒め物の音でこの騒動は聞こえていないようである。
ミ「ずいぶんな余裕ですけど、僕の先史遺産(オーパーツ)デッキを甘く見ないでほしいものですね。古代と未知の計り知れぬ力、思い知らせてあげますよ」
ク「ふ……トーマス、ミハエル……お前たちのその自信、私の広大かつ最強の惑星(プラネット)デッキが打ち砕いてやる」
ト「なんだと?」
ミ「望むところですよ!」
T「……盛り上がってるところ悪いけど、僕ももちろん参加するからね」
ク「な……! 父様、そんな大人げないことを……!」
T「だって僕、チョコレートだぁいすきだもん!」
わざと見た目相応な子供の口調でそう言うトロンを、三人は呆れたように見る。
ミ「調子のいい時だけ子供に戻らないでください……」
ト「まったくだ……見てるこっちが恥ずかしい……」
しかし、トロンは恥ずかしがる様子もなく、すぐに真剣な顔に戻る。
T「まあ、冗談はともかく……いかにナンバーズと言えど、僕の紋章神の前ではどんなモンスター・エクシーズも無力になるってこと、忘れないでよね……?」
その言葉に、再び三人に戦慄が走る。
T「デッキの調整も兼ねて、勝負は十四日ぴったりにしようじゃないか。エドガーに気を遣わせるのも悪いし、あの子がキッチンを使い始めてからデュエルを始めればちょうどいい……そうそう、もしもエドガーがこの話を聞いて、無理にチョコを四つ作るようなことにならないように……このことは、十四日までエドガーには内緒だよ?」
トロンの提案に、三人は納得の表情を見せる。
ト「十四日……まあ、俺の完成されたデッキにそこまで時間はいらねえが……エディに内緒にしておくことには賛成だな」
ミ「ですね。さすが父様、姉様に配慮した素敵な気遣いです」
ク「バリアンとの戦いが終わってからは、久しく本気のデュエルもしていなかった……ふ、せっかくの本気で挑むデュエルだ、存分に楽しませてもらおうか」
T「決まりだね――」
エ「ご飯出来たよー!」
ちょうど話に区切りがついたと思われたその時、エドガーがキッチンから、夕飯が出来たことを大声で知らせた。
T「うんー! 今行くよー!」
トロンはエドガーにそう言って、三人を見る。
T「さ、ご飯ご飯~! ほら、みんなも行くよ~!」
先ほどの雰囲気が嘘のように、トロンは子供のようにダイニングに向かう。そんなトロンを、三人はまた呆れたような困ったような顔で見ていた。
かくしてここに、エドガーだけが知りえない、アークライト一家のバレンタイン聖戦が始まろうとしていた……
2――迎えた十四日
エドガーの知らないところで一悶着のあった二月一日から約二週間が経過し、アークライト一家は来る十四日を迎えていた。
この日、トーマスとエドガーは仕事――デュエルの試合やイベント、打ち合わせのスケジュールを敢えて入れておらず、クリスとトロンも仕事としている研究は休みとし、ミハエルも学校が休みだったために皆朝から家にいた。そして、朝食を終えて軽い家事を終えた後、エドガーはトロンにお菓子作りのためにキッチンを使いたいと伝えた後、バレンタインのチョコレート菓子を作るために一人キッチンにこもった。
T「ほう……みんなやる気じゃないか」
キッチンにこもるエドガーを見送ったトロンが、キッチンから見えない場所ということで決戦の場に決めたトロンの自室に行くと、そこにはいつの間にか、彼らを象徴する青、薄黄、赤の紋章服を着て、デュエルディスクをセットし、左目の色を変えてデュエルの準備を整えていた三兄弟がいた。
T「それじゃあ始めようか……」
トロンは、合図のごとく異空間から出現させたデュエルディスクを左腕に装着する。
T「バレンタインの勝者を決める、運命のデュエルを!」
トロンの言葉に、クリス、トーマス、ミハエルは各々に決意を秘めた表情を浮かべ、対戦相手となる三人の家族を見据えた。
T・ク・ト・ミ「デュエル!」
今ここに、親子、兄弟による義理チョコを巡る戦いが始まろうとしていた。
3――熱戦の末に……
ト「運命の糸を操る地獄からの使者、漆黒の闇の中より舞台の幕を開けろ! No.15! ギミック・パペット-ジャイアントキラー!」
【No.15 ギミック・パペット-ジャイアントキラー ☆8 闇属性 機械族 A:1500 D:2500】
ク「我が背負いし運命よ、今こそ銀河を飲み込む巨大な大地となりて降臨せよ! No.9 天蓋星ダイソン・スフィア!」
【No.9 天蓋星ダイソン・スフィア ☆9 光属性 機械族 A:2800 D:3000】
ミ「有限なる時空を破り、今その存在を天地に刻め! No.6 先史遺産(オーパーツ)-アトランタル!」
【No.6 先史遺産(オーパーツ)-アトランタル ☆6 光属性 機械族 A:2600 D:3000】
デュエルは接戦を極め、遂に息子たち三人のエースであるナンバーズがフィールドに揃う。そして、その状態でトロンはターンを迎えた。
T「さすがだね。紋章神使いの僕を相手に、わざわざ君たちのエース……モンスター・エクシーズであるナンバーズを召喚してくるとは……いい心掛けだよ。三人共デュエリストとしての誇りをしっかり持っていてくれて嬉しい限りだ」
ト「父さんの持つナンバーズは、全てのモンスター・エクシーズの効果を無力化する……それを知っていて、モンスター・エクシーズであるナンバーズを召喚するのは愚行だと言いたいのか?」
トーマスの言葉に、トロンは不敵な笑みを浮かべるだけで何も言わない。
ク「トーマスの言うことも確かに事実……ですが父様、我々は貴方の背を見て育ったデュエリストですよ? 策もなしに大事なナンバーズを出したなどとは思ってほしくありませんね」
ミ「それに、お気付きですか父様? いずれは力をぶつけ合うとしても、今、僕たち兄弟は揃って父様を打ち崩そうとしていることを。いかに父様がお強いと言っても、三人からの猛攻から逃れることは至難の業でしょう」
T「言いたいことはわかるよ、ミハエル。でもね、三人揃って、ナンバーズを召喚しておきながらも僕にダメージを与えられずにターンを終えていることを忘れてはいないかい?」
ミ「そ、それは……」
ト「その余裕……さすが父さんだ、俺たちが切り札……ナンバーズを召喚するタイミングまで、自衛の手を温存していたんだな」
ク「身内ながら恐ろしい方だ……その様子では、我々が暗黙のうちに、先に父様から下そうとしていることまでお見通しのようですね」
T「当たり前だろう? 僕は君たちの父親だ、息子たちの考えることなんてだいたい予想がつく……さあ、今度は僕が見せてあげるよ! 君たちを下す紋章の神を! 僕のターン、ドロー! さあ、現れろ! 「紋章獣アンフィスバエナ」!」
【紋章獣アンフィスバエナ ★4 風属性 ドラゴン族 A:1700 D:1100】
トロンは自身のターンを開始したかと思うと、手札から一枚のカードを墓地に捨ててアンフィスバエナを特殊召喚する。
ト「このモンスターは、手札から紋章獣一体を墓地に捨てることで特殊召喚ができる。そして、アンフィスバエナの効果で墓地に捨てた「紋章獣レオ」の効果を発動! このカードは墓地に送られた時、デッキから紋章獣一体を手札に加えることが出来る! 僕はレオの効果で、デッキから「紋章獣エアレー」を手札に加える!」
場を展開していくトロンを、兄弟たちは緊張しながら見ている。
ト「さらに、「紋章獣ベルナーズ・ファルコン」を通常召喚!」
【紋章獣ベルナーズ・ファルコン ★4 風属性 鳥獣族 A:1000 D:1600】
現れる二体目の紋章獣。
ト「ここで、さっき手札に加えたエアレーの効果を発動するよ。このモンスターは僕のフィールドに紋章獣が二体以上いる時、手札から特殊召喚することが出来る。さあ、来い! 紋章獣エアレー!」
【紋章獣エアレー ★4 地属性 獣族 A:1000 D:1800】
ト「ちっ……一気にモンスターが三体揃っちまいやがったか」
ク「我々の攻撃を防ぐために、父様のフィールドはがら空きだった……そこからの、この展開の早さとは……」
ミ「あのモンスターを召喚するつもりなんですね、父様……!」
T「さあ、行くよ! 僕は紋章獣アンフィスバエナ、ベルナーズ・ファルコン、エアレーをオーバーレイ! 三体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築! エクシーズ召喚! 現れろ! No.69 紋章神(ゴッド・メダリオン)コート・オブ・アームズ!」
【No.69 紋章神(ゴッド・メダリオン)コート・オブ・アームズ ☆4 サイキック族 光属性 A:2600 D:1400】
現れたトロンのエースモンスター、コート・オブ・アームズに、三人は予想していた展開であったとしても思わず息を飲む。
T「せっかく召喚された君たちのナンバーズ、みぃんな僕が役立たずにしてあげるよ! さあ、やれ! コート・オブ・アームズ! ゴッド・メダリオン・ハンド!」
トロンの宣言と共に、コート・オブ・アームズがジャイアントキラー、ダイソン・スフィア、アトランタルへ向かって腕を伸ばそうとした時だった……
エ「な……何やってんの……?」
いつの間にか、右目の色彩を変えてその周りに模様を現しデュエルの観戦ができる状態になっているエドガーが、静かにも驚いた様子でトロンの部屋のドアを開けてそこに立っていた。
ト「な、エディ?!」
ミ「あ、えっと……これは……」
ク「……」
キッチンにいるとばかり思っていたエドガーの登場に、兄弟たちは状況の説明ができないでいる。
エ「リビングに誰もいないから、みんなどこで何をしてるのかと思ったら……ナンバーズが勢揃いって……どうなってんの?」
ト「安心しろ、エディ。お前のチョコは俺が必ずもらい受ける」
エ「え……??」
ミ「勝手なことを言うのはやめてください、トーマス兄様。姉様のチョコは僕がもらいますから」
エ「ん……??」
ク「何度言えばわかる。エドガーのチョコをもらい受けるにふさわしいのはこの私だ」
エ「えっと……」
兄弟たちの話ではらちが明かないと思ったエドガーは、トロンの元へと歩み寄る。
エ「ねえ父さん、良かったらこの状況の説明をしてほしいんだけど……」
T「僕も含め、みんな君からのチョコが欲しいんだよ。でも、君が作るチョコは一つだけ……だから、そのチョコをもらい受ける男は誰かを、デュエルで決めようとしているのさ。まあ、この戦況をひっくり返すなんていくら僕の息子たちと言えど不可能! エドガーのチョコは僕がもらったも同然だけどね!」
段々と嬉しそうに語りだすトロンに、エドガーは気まずそうな顔をする。
エ「あー……その、さ……」
T「さあ、そろそろ決着をつけようじゃないか!」
エドガーの言葉に気付かず、トロンはデュエルを続けようとする。
エ「ちょ、ちょっと待って! 父さん!」
エドガーは慌ててトロンにそう声をかけるも、
ク「望むところです、父様!」
兄弟たちは構わずトロンの挑戦を受けようとする。
エ「兄さんも待って! トムも、ミハエルも! とりあえず中止! このデュエルは中止だ!」
エドガーは兄弟たちにもストップをかけ、呆れたようにため息を一つ吐く。
エ「いくら紋章服とクレストアームズの力で、ナンバーズを召喚しても前みたいに魂が消耗しないとはいえ……みんなして、こんなバカみたいなことにナンバーズを引っ張り出して、ホント何やってんのさ……」
クレストアームズとは兄弟四人共が右手首に付けている、クリスが発明した腕輪のことであり、魂の消耗を最小限に抑えて紋章の力を使うことが出来るようにするものである。また、紋章服も元々は、少しでもナンバーズを操るための紋章の力に兄弟たちがなじめるようにと、トロンが自身の紋章の力をわずかに込めて作り、渡した服である。
これらを同時に身につけることによって、普通のカードを扱うかのように反動をほとんどなくしてナンバーズを扱うこともできるのだが、やはりナンバーズは特別なカードであることに変わりはなく、そんなカードをいわゆる親子喧嘩、兄弟喧嘩に持ち出した家族に対して、エドガーは呆れの色を隠しきれなかった。
エ「それに、なんか勘違いしてるみたいだけど……チョコはみんなにあげるつもりだよ?」
T「え、でもエドガー、作るのは一つだけだって……」
エ「……まだ完成してないけど、ほとんど出来てるからみんなで見においでよ」
そう言って、エドガーは右目の虹彩の色を戻して、先導するようにキッチンに戻っていく。
その様子を見たトロンと兄弟たちも、左目の虹彩の色を戻してARビジョンのリンクを解除し、デュエルディスクを異空間へと消し戻してからエドガーの後を追った。
4――一つのチョコ
エドガーと少し間をおいてキッチンに向かう四人だったが、ふとミハエルが、
ミ「あ、いい匂い……」
と、キッチンから香る匂いに気付く。
T「これは……焼き菓子の匂いかな」
ク「匂いだけでわかるものですか……?」
T「わかるさ。逆にみんなはわかんないの?」
ト「わかんねぇよ……」
そんな話をしていた四人は気付けばキッチンの前まで辿り着き、そして揃っておそるおそるキッチンを覗いた。そこにはエドガーが、今まさに何かを焼いている最中の真っ赤なオーブンの前に立って四人を待っていたようである。
エ「ほら、今日作ってたのはこれだよ」
そう言ってエドガーがオーブンの前をよけ、四人がオーブンを覗く。
ク「これは……」
ト「そういうことか……」
ミ「確かに、これは一つだけどみんなで食べれますね……」
オーブンの中には、少しずつ膨らんできているチョコ色のスポンジケーキがあった。
T「これを僕たちに?」
エ「まあ……焼きあがってみないと美味しく出来てるかはわかんないけど……」
ト「何言ってんだ、美味いに決まってんだろ」
ミ「そうですよ! 焼きあがりが楽しみです!」
トーマスとミハエルにそう言われ、エドガーは嬉しそうに
エ「ありがと。せっかくのバレンタインのチョコケーキだからね、焼きあがった後の仕上げも頑張るよ!」
と言う。
ト「ところで父さん……一人しかチョコをもらえない言い出したのは誰だったっけな?」
ふいに、どこか白々しくそう言ったのはトーマスだった。
T「えー、誰だっけ? クリス?」
ク「私ではありません」
T「じゃあミハエルか」
ミ「違います」
T「そしたら……トーマス?」
ト「あのな、父さん……」
トーマスは静かにそう言ったかと思うと、大きく息を吸った。そして……
ト「勝手な勘違いでナンバーズを狩りださせておいて、責任の押し付けをしてんじゃねえ!!」
と、本気でトロンを怒鳴りつけた。
T「わ、悪かったよ……ごめん、ごめん」
ト「あんた、反省してねえだろ! 言葉が軽いんだよ!」
T「反省してるよ! でも、エドガーがチョコを一つしか作らないって言ってたのは本当だし――」
ト「そこから勝手に、チョコをもらえるのは一人だけだと勘違いしたのは父さんだろうが!」
トロンは珍しくトーマスに押され気味の様子であり、クリスとミハエルはトロンにバレバレな疑いをかけられたことに不服そうな顔をしている。そしてエドガーは、そんな家族をただ呆れて苦笑いをしながら見ているだけだった……
トーマスによるトロンへの説教は、オーブンがケーキの焼き上がりを知らせるブザーを鳴らすまで続いたという。
5――内緒だよ
二月十四日の夜、アークライト一家は夕食を済ませ、今日のお楽しみでもあったエドガーの作ったチョコレートケーキをみんなで仲良く、美味しく食べることができた。
そして、各々がそろそろ就寝の支度を始める頃である。
T「おやすみ、みんな。先に失礼するよ」
最初に寝室に向かうためにそう言ったのはトロンである。それからトロンはエドガーの傍に来て、
T「エドガー、今日は素敵なバレンタインをありがとうね」
と言う。
エ「どういたしまして。喜んでくれて俺も嬉しいよ。それじゃあ、おやすみなさい、父さん」
家族と就寝の挨拶を済ませ、トロンは自室兼寝室へと向かった。
ク「私もそろそろ寝るよ」
そう言って、クリスもソファから立ち上がってからエドガーの傍に来て、
ク「エドガー、良い妹がいて幸せだと、今日は改めて感じた一日だった」
と言う。
エ「俺が妹としてできることで、そう思ってくれて嬉しいよ。それじゃあ、おやすみ兄さん」
クリスもまた、自室へと向かった。
それからトーマス、エドガー、ミハエルの三人はリビングで少しの間過ごしていたが、ミハエルが
ミ「ちょっと眠くなってきたな……僕もそろそろ寝ますね」
と言って、
ミ「兄様、おやすみなさい」
ト「ああ、おやすみ」
ミ「姉様、おやすみなさい」
エ「おやすみ、ミハエル」
と、二人に就寝の挨拶をする。
ミ「ふふ……クリス兄様と似たような言葉になっちゃいますけど、僕も素敵な姉様がいて幸せ者だと、今日は改めて感じました! 来月のお返し、素敵なものを用意できるように頑張りますね!」
エ「ありがとう、楽しみにしてるよ」
エドガーの言葉に嬉しそうに微笑んで、ミハエルも自室へと向かった。
ト「しかしまあ……その……騒がせて悪かったな」
ミハエルが部屋へ戻ったのを確認して、トーマスはふいに、そんなことを言う。
エ「え、なんのこと?」
ト「いや、ほら……驚いたろ。リビング覗いたら誰もいなくて、そんでみんな父さんの部屋で本気でデュエルなんてしててよ」
エ「あー、うん……それは本当に驚いた……みんなどこにいるのかと思って探してたら、父さんの部屋に近付いた時にクレストアームズが反応したからさ、何かあったのかと思ったら……」
ト「ナンバーズが勢揃いだもんな……」
エ「それにしても父さん……確かに俺、チョコは一つしか作らないとは言ったけど、一人にしかあげないなんて言ってないんだけどなぁ……何をどう考えたらそんな極端な勘違いになったんだろうね?」
苦笑しながらそう言ってから、エドガーはふっと思い出したかのように、
エ「ところでさ、俺がデュエル止めてなったらトムは勝てそうだった?」
とトーマスに聞いてみる。
ト「当たり前だろ? 確かに父さんのコート・オブ・アームズが出てきて若干きつい戦況ではあったが、あれからいくらでも覆せる手はあった。あのデュエル、間違いなく俺の勝ちだったぜ?」
エ「そっか。さすがは極東エリアチャンプのタイトルホルダー様だ」
そう言って、エドガーはなぜかキッチンへと向かっていった。
ト「おい、エディ?」
不思議がるトーマスだったが、少ししてエドガーは小さな包みを持って戻ってくる。
エ「はい。おそらくはデュエルで勝っていただろうトムに、俺からご褒美」
そう言ってエドガーから渡された包みを受け取ったトーマスは、小さくも驚きを隠せない。
ト「おい……これ、まさか……」
エ「本命チョコってヤツ? 面白いよね、日本地区のバレンタインって、本命と義理を分けるんだって……トムだけに渡したってこと、みんなには内緒だよ?」
エドガーは、恥ずかしそうにも嬉しそうにそう言った。
ト「……当たり前だ」
そう言うトーマスは、柄にもなく嬉しそうだった。
エ「それじゃ、俺もそろそろ寝るね」
ト「ああ」
二人は、欧州の風習にある挨拶程度の軽いものではあるが、他の家族が先に寝たからということもありハグをする。
エ「ホワイトデー、最高のファンサービスをしてよ。期待してるからさ」
ト「任せろ。俺のファンサービスは絶対に期待を裏切らないからな。楽しみにしておけ」
エ「ありがと! それじゃおやすみ、トム」
ト「ああ、おやすみエディ」
こうして、エドガーもまた自室へと向かっていった。
一人リビングに残ったトーマスは、少しそわそわした様子でエドガーからもらった包みを開けてみた。
そこには、黄色く色づけされた四つのホワイトチョコトリュフと、薄紫色に色付けされた二つのホワイトチョコトリュフ、そして一枚の折りたたまれた便箋が入っていた。
――Dear トーマス
大好きだよ。これまでも、これからも。
From エドガー――
開かれた便箋の真ん中に大きく書かれている短いその一言に、トーマスは思わず優しい笑みをこぼした。そして、
ト「俺もだ……大好きだぜ、エディ」
思わず、自身の素直な気持ちを言葉にしていた。
こうして、そして女として生きると決めたエドガーが初めて迎えた二月十四日は、彼らにとっては特別な一日となった。
これは、エドガー・アークライトが女であることを知っているアークライトの家族たちだけの、そして、ただ一人本命チョコをもらい受けることのできたトーマス・アークライトだけの、小さくも幸せな秘密の一日の出来事である。